地域内バリューチェーン構築支援事業 緊急通報センサシステムの開発

概要

1.テーマ 「 緊急通報システムの開発」

2.テーマ選定理由:

長野県地域バリューチェーン事業の取組として長野県産業振興機構、信州大学、北アルプス広域消防本部と協議した結果、「浴室での溺水事故」がキーワードとして上がってきたため、溺水事故の緊急通報システムとして推進することとしました。

3.溺水事故について:

人口の増減や死亡理由の分類など、日本国内では厚生労働省にて集計を行い、データがまとまっています。
今回の溺水事故についても「不慮の事故による死亡者数の推移」として集計されています。

①家庭における主な不慮の事故の種類別にみた死亡数の年次推移:
家庭における主な不慮の事故の種類別に平成7 年以降の死亡数の年次推移をみると、窒息は7 年の3,393 人から20 年の3,995 人まで、溺死は7 年の2,966 人から20 年の4,079 人まで、転倒・転落は7 年の2,115 人から20 年の2,560 人まで、それぞれ増減を繰り返しながら増加傾向にある。一方、火災は平成7 年の1,174 人から20 年の1,238 人にほぼ横ばいで推移している。(統計下表)

引用:厚生労働統計一覧 ― 人口動態統計特殊報告 ― 不慮の事故死亡統計
平成 21 年度「 不慮の事故死亡統計」の概況

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/furyo10/index.html

②東京消防庁集計の人口動態統計数
東京都の溺死及び溺水事故数の年齢別の人数が集計されています。傾向として、中年
から高齢者の事故が多いことがわかります。
浴槽内での及び浴槽への転落による溺死及び溺水(令和3 年度)
総数5459
3 名/0 歳  9 名/1 ~ 4 歳 1 名/5 ~ 9 歳 8 名/10 ~ 14 歳 23 名/15 ~ 29 歳 38 名/30 ~ 44 歳
280 名/45 ~ 64 歳 1906 名/65 ~ 79 歳 3191 名/80 歳以上

4.原因

その①:浴槽内で倒れて救急搬送された方の実態調査を行ったところ、体温上昇により意識が遠のき熱中症になってしまった方が多いことが示されました。
肩や首までの全身を熱いお湯の中につかる全身浴では、湯からの熱で体温があがり、長時間つかり続けた場合、意識レベルの低下が起こります。その結果、浴槽内で脱力して溺水するという状況になることもあり、また、お湯から出られなくなることでさらなる体温上昇を招き、それ自体が死因となる場合もあります。

入浴事故の機序
※厚労科研報告書文1)より引用

その②:熱中症による意識障害を防ぐには体温が38℃を超えないことが重要です。体温の変化をお湯の温度と入浴時間との関係から、42℃のお湯に10 分入浴した場合に、体温が38℃近くに達することが分かりました。お湯の温度は41℃以下、つかる時間は10 分までが目安です。

引用:国土技術政策総合研究所 建物事故予防ナレッジベース
https://www.tatemonojikoyobo.nilim.go.jp/kjkb/learning/learning_f.php

5.対策

口動態統計によれば、「浴槽内での溺水」の9 割以上は家庭で発生しています。
家庭の浴室では家族が同居していても浴室内での異変に気付きにくいことや、単身世帯が増加していることが影響していると考えられます。
入浴事故の予防対策として、「熱め・長め入浴」を避けることや、家を暖かくすることも含め、その他の入浴時の注意点

  • 浴槽から急に立ち上がらない
  • 食後すぐの入浴や、飲酒後や医薬品服用後の入浴は避ける
  • 同居家族に入浴時の見守りを頼む

などがまとめられています。
また、万が一の事故発生時の対応

  • 浴槽の栓を抜く
  • 大声で助けを呼び、人を集める
  • 入浴者を浴槽から出せるようであれば救出する

などについても整理されています。
今回のシステムは、
①温度
②時間
③動作・動き
をポイントにセンシングし、同居の家族に知らせる仕組みを実現させます。

合わせて、2018 ~ 2020年度 長野県茅野市と公立諏訪東京理科大学、地域企業との連携プロジェクト、産学公連携 スワリカブランド創造事業で実現したLPWA(LowPowerWideArea)を展開した緊急通報の仕組みも取り入れ、同居していない離れた場所に住んでいる家族にも通知する仕組みを実現しています。

取り組み

1.ミリ波計測

入浴者の溺水状況を把握

2.サーモパイル温度計測

浴槽と入浴者の温度状況を把握

3.入浴時間計測

脱衣場と浴室の人を検知し、入浴時間を計測

4.温湿度計測

脱衣場と浴室の温湿度を計測する

5.緊急スイッチ

浴室内に体調が悪くなった際に発報する無線スイッチの設置

6.タブレットアプリ

センサの結果をタブレット上のアプリケーションに表示

7.LPWA を用いた遠隔での状態監視

SONY LPWA を用い、遠隔で離れた場所でも緊急スイッチが押され
たことを通知するシステムを実現

8.加工技術

①3D プリンタによる試作
② 使用者の視点から見た筐体デザイン設計
③ デザインを実現する金型設計と成形技術